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東風 第29号(2014年8月)

巻頭言

暑い日が続きますが、人間の皆さまはいかがお過ごしですか。

僕は猫です。とくに名前はありません。のどかな300人ほどの島でのんびりと暮らしています。夏になると海水浴に来る子供たちからお菓子をもらう楽しみもあります。ここ最近は、僕らの写真をこぞって撮りに来る人間も増えてきました。そういえば、まわりを見渡してみると、確かに僕らの家族や親戚だらけです。きっと人間と同じくらいの猫が平穏に暮らしているでしょう。

遠い昔から、僕らは漁師の人から魚をもらっています。そのお礼に、僕らは網をかじるいたずら鼠を捕まえて人間と仲良く共存してきました。ところが最近、漁師の人が呟いているのを小耳に挟みました。「この先、漁をやめないといけないかもな…」と暗い面持ちに溜息まじりです。僕はこれから先も島でとれた新鮮で安全な魚が食べたいのです。輸入された外国の魚なんてあまり食べたくありません。ましてや、添加物だらけのキャットフードは御免です。

僕は生まれも育ちも藍島。潮の香りのする青い海が大好きです。広い雄大な海には境界なんてどこにもありません。もしどこかで汚染された水が流れ込んでしまえは、回りにまわって玄界灘まできてしまいますね。人間も僕らも死活問題です。汚れてしまった海はどうやったら元に戻るのですか?誰がなおしてくれるのでしょう?以前に水俣の人間や猫仲間が、それはそれはひどい目に合ったんだよ、と物知りの爺ちゃんから聞いたことがあるのです。だから僕は心配で仕方がないのです。

それにしても暑いですね。昔はこんなに暑かったかな?でも僕らは平気です。涼しくてお気に入りの場所をみつけることができるからです。そこで一日の大半をのんびりと寝て過ごしています。時々、意地悪な犬に追いかけられたり、血相を変えた鼠に噛まれることもあるけれど、まあ、たいしたことではありません。でも、人間同士が殺しあうような争い事だけは厄介です。昔から人間が一旦争い事を始めてしまうと、泥沼になって手がつけられなくなってしまうし、意地悪で執念深くて、一向に終わりゃしません。しまいには、なんでこんな醜い事を始めたのかさえわからなくなって、あまりの愚かしさに開いた口も塞がりません。

僕らはただのんびりと平穏に暮らしたいのです。だから人間がひどい争い事で悩んでいるなら、すぐに声をかけてください。なんでも話し合いで解決できる僕らが手を貸してあげますよ。お礼は旨い魚で結構です!

紙面について

特集
近未来からの手紙 どうして僕は戦場に?
発行
2014年8月
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東風 第29号
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